Question
固定残業代を支給している社員が育児のために所定外労働時間免除、または短時間勤務の申請を検討しています。固定残業代は残業を前提として支給しているため、社員がいずれかの働き方を選択した場合、固定残業代を全額不支給とすることは可能でしょうか。
Answer
固定残業代を全額不支給とすることは、ケースによっては不利益変更と捉えられる可能性があるため注意が必要です。社員が納得できる形で対応するためには、全社平均の残業時間を基準とした調整手当を支給することを推奨します。
基本事項
全社平均の残業時間がみなし残業時間と同程度である場合には、その時間分について労務提供がなくなるため所定外労働時間免除、または短時間勤務の社員に対して固定残業代を全額不支給とすることは合理的といえます。
一方で全社平均の残業時間がみなし残業時間を大きく下回る場合、差分については残業時間に関わらず恒常的に支給されていると捉えることができ、全額不支給とすると不利益変更と看做される可能性があります。
したがって社員が納得できるよう全社平均の残業時間を加味した調整手当を支給することを推奨します。さらに労務リスクを軽減するために休業明けには原職復帰(固定残業代の支給あり)可能なことを前提に、所定外労働時間の免除等を希望する場合は固定残業代を満額支給できないことを説明した上で、社員から申出書を提出してもらうと安心です。
調整手当の計算方法
調整手当の計算方法の例としては以下のように固定残業代から全社平均の残業時間を引く方法が考えられます。
調整手当 = 固定残業代 – (全社平均の残業時間 × 残業時間の単価)
より正確に残業時間分を減額するためには複雑な計算が必要になりますが、上記方法であればシンプルな計算式となり、社員の納得も得られやすいと考えます。
また、該当者が少なく、全社ルールを策定するのではなく個別対応とする場合は、全社平均の残業時間を該当社員の個人平均残業時間に読み替えて計算することも一案ですが、その場合は当該社員の残業が何に起因するものなのか(業務量によるものか、パフォーマンスによるものか等)を考慮した上で調整手当の金額を検討する必要があります。
<まとめ>
実態を加味せずに固定残業代を全額不支給とすることは不利益変更と捉えられる可能性があります。全社の平均残業時間を踏まえて調整手当を設定する等、社員に納得感をもって所定外労働時間免除または短時間勤務といった働き方を選択してもらえるようにすることが重要です。
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