Question
がん治療で入院のため休職中の社員の退院が決まりました。退院後もしばらくは体調に不 安が残るため、すぐに完全復帰は難しそうです。会社としてどのようにフォローすればよい ですか。
Answer
近年はがんなどの傷病にかかっても退職をせずに通院しながら仕事を続けるケースが増え ており、企業の中には短時間勤務や軽勤務を認めるところもあります。また、厚生労働省が 公開している治療と仕事の両立支援のためのガイドラインや、企業の両立支援の取組事例 が参考になります。
<基本事項>
私傷病による欠勤や休職制度は一般的に多くの企業で導入されており、2017 年の労務行政研究所による全産業 230 社を対象にした調査では、私傷病欠勤は全体の 88.3%、私傷病休職 は 98.3%の企業で導入されていました。しかし、近年は医療制度の進歩により通院をしなが ら仕事を継続できるケースが増えたことや、失業による経済的困窮を防ぐために、厚生労働省は企業に労働者の治療と仕事の両立支援を求めています。両立支援においては、1 日のうち一定の治療時間の確保や、身体の負担軽減のための短時間就業、時差出勤などが想定されるため、従来の休職制度とは異なる人事制度や配慮が必要です。
厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」において、以下の勤務制度の導入検討を推奨しています。
- 時差出勤制度
- 短時間勤務制度 ※私傷病を想定したもので、育児介護休業法に基づく短時間勤務制度とは別に設けるもの
- 在宅勤務(テレワーク)
- 試し出勤制度
4は長期間にわたり休業していた労働者に対し、円滑な復職を支援するために、勤務時間や勤務日数を短縮した試し出勤等を行うものです。社員と職場関係者の双方にとって、不安を 解消し具体的な復帰準備を促すことが可能となります。また、1~4の制度の適用する時間や回数などの詳細は個別の社員の状況に合わせて決める設計も可能です。
一方で、両立支援の期間が長引くことに不安やリスクを感じる企業もあるかもしれませ ん。ある企業の事例では試し出勤を勤務ではなく休職期間中の配慮として位置づけてお り、試し出勤中は実際の業務はせず規定の時間に会社へ出勤する訓練をします。また、試し出勤中に軽い業務を行わせる別の企業の事例では、休職明けの一定期間内に限って試し勤務を認め、あくまで試し勤務期間内での完全復帰を社員に促しています。
このように期間を区切らなければ、私傷病による短時間勤務や試し勤務の期間が長引くことも想定されます。会社として最終的には復帰を目指してもらうのであれば、私傷病者向けの勤務制度には適用期間の上限を設けてその期間内で会社・当該社員の双方の視点で復帰できるかの見極めをすることを推奨します。両立支援策を新たに検討される際は、会社 として現実的にどのくらいの期間、どのような支援ができるのかを明確にイメージすることが大切です。
<参考>
「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000912019.pdfPDF (2022 年 12 月 15 日閲覧)
「治療と仕事の両立について」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html (2022 年 12 月 15 日閲覧)
「両立支援の取組事例|治療と仕事の両立支援ナビ」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html (2022 年 12 月 15 日閲覧)
「疾患を抱える従業員(がん患者など)の就業継続」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html (2022 年 12 月 15 日閲覧)
<今回のケースについて>
社員の病状によっては完全復帰までの期間が長引いたり、既存の人事制度では対応しきれ なかったりする場合も想定されます。会社と社員双方の不安を解消するために、会社が支援できる範囲や期間について、予め当該社員によく説明しておくことが大切です。
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。