人事・労務Q&A

健康情報の取り扱いについて

Question

体調不良を訴え、産業医面談を実施した従業員がいます。人事部としては体調不良について本人の上司や仕事で関係のある従業員に対して伝達すべきと考えていますが、本人は伝達しないよう希望しています。業務に支障が出てからでは遅いので、本人の同意がなくとも、上司らへ伝達して良いでしょうか。

Answer

労働者の健康情報は要配慮個人情報に該当するため、伝達にあたっては基本的に労働者本人の同意を得る必要があります。状況によっては例外的に、労働者の同意がなくても開示が認められる場合がありますが、その場合も伝達が許される情報の範囲や伝達先は、事業者が健康配慮措置を講じるために必要となる最小限の範囲にとどまります。

<基本事項>

体調不良を訴える従業員がいる場合、事業者は従業員を産業医と面談させて、従業員の健康を保持するための措置について面談をした産業医の意見を聴くことが義務付けられています。
産業医は医師としての守秘義務と、労働者の健康上の問題を知った場合に事業者へ伝達する義務の両方を負っています。基本的には守秘義務が優先されるため、労働者の健康情報の伝達にあたっては労働者本人の同意を得る必要があります。
例外として、厚生労働省は次の(1)(2)ようなときは、労働者の同意がなくてもその健康管理情報を上司などの関係者に伝達することができると見解を示しています。
 (1)同意を得ることが困難であり、開示することが労働者に明らかに有益である場合
 (2)開示しないと公共の利益を著しく損なうことが明らかな場合など
具体的には、
①労働者が自傷行為に及ぶ可能性が高い場合
②健康診断の結果、伝染病が発覚し、ただちに対応しなければ他の労働者に健康被害が生じる危険がある場合
などが該当します。

また、労働者の同意の有無に係わらず、伝達が許される情報の内容やその伝達先は、事業者が健康配慮措置を講じるために必要となる最小限の範囲にとどまります。医療検査結果の詳細な数値や具体的診断名は、必ずしも健康配慮措置を講じる上で必要な情報とはいえません。さらに、社内のハラスメントなどに起因した体調不良の場合、具体的な当事者名や経緯などの情報は慎重に管理されるべきであり、本人の同意なく開示すべきではありません。

産業医の守秘義務は、人事担当者に対しても、本人の同意を得ずに労働者の健康情報を伝達してはならないということだと解釈されます。しかし、現実的には人事部門をとおして産業医面談が設定される場合も多く、体調不良であるという事実は人事部門へも伝わっていることが多いと考えられます。その情報の取り扱いに悩まれる人事担当者も多いのではないでしょうか。その場合は上述の産業医の負っている守秘義務に倣い、本人の同意の有無や情報開示範囲について留意した上で、慎重に取り扱いを検討することが求められます。

最近では、社内の新型コロナウイルス感染の情報について、開示すべきか迷われた企業も多いのではないでしょうか。社内の感染者や濃厚接触者の情報は当然、要配慮個人情報に該当する健康情報です。企業はこうした情報をむやみに取得すべきではなく、また、知り得た場合も開示にあたっては基本的に本人の同意が必要です。一方で、感染者の特定や行動履歴に関する情報は、感染拡大防止等のためには直ちに周知を図る必要があり、厚生労働省が提示する例外(2)に該当するとも考えられます。よって、開示にあたっては可能な限り本人の同意を得ることが望ましいですが、本人の同意を得ることが困難な場合には、同意を得ないまま社内や取引先に周知を行うことも認められると考えられます。ただし、感染者や濃厚接触者に対する偏見や差別が生じる可能性もあるため、状況に応じて、氏名の公表は避けるなどといった対応も検討するべきでしょう。

<今回のケースについて>

当該社員の体調不良に対して配慮措置を講ずるために上司らへの情報共有が必要ということであれば、可能な限り本人の同意を得る努力をする必要があります。本人の同意を得ることができた場合でも、先ずは体調不良であるという事実や対応状況のみを伝達し、具体的な検査結果数値や産業医面談の詳細については取り扱いに注意が必要です。

※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。