Question
在宅勤務で労務管理が煩雑になったため、みなし労働である裁量労働制の導入を検討しています。裁量労働制 といえば、IT 企業や専門職のイメージが強いですが、コーポレートや営業の職種にも適用可能ですか。
Answer
裁量労働制には、適用できる職種の限定されている専門業務型裁量労働制と、職種を限定せず、事業運営上の 重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査及び分析を行う労働者に適用できる企画業 務型裁量労働制があります。後者であれば本社のコーポレートや営業の部署のうち該当する職種へも適用で きる可能がございますが、通常想定される販売促進や顧客対応担当者としての営業職には適用は難しいと考えられます。裁量労働制は制度の設計、導入、運用体制構築、対象従業員の健康管理に至るまで運用のハードルは高く、また必ずしも全く労務管理をしなくて良いわけではありません。
<基本事項>
裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ労使で合意した労働時間を勤務したとみなす制度です。フレックスタイム制と混同されがちですが、フレックスタイム制は労働者が自身の勤務開始時刻及び終 了時刻を自由に決められる制度のことをいい、あくまで実労働時間に則った労務管理や給与支給がなされます。
上手く使えば、会社側にとっては人件費を予測しやすくなり、労働者にとっても時間に縛られずに業務ができるためより良い成果を出せる可能性がある制度です。
専門業務型裁量労働制は厚生労働省の規定する 19 業務に適用することができます。
導入手順は以下(1)(2)のとおりです。
(1) 労使協定で決議を行い、以下①から⑦を定めた協定書を締結する
① 制度の対象とする業務
② 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
③ 労働時間としてみなす時間
④ 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
⑤ 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
⑥ 協定の有効期間
※ 3年以内とすることが望ましい
⑦ 4及び5に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
(2) 労働基準監督署長へ届け出る
なお、労働時間としてみなす時間は 1 日あたりの時間で設定するため、みなし労働といっても、毎月の所定労 働日数が変われば給与も変動することに注意が必要です。
次に、企画業務型裁量労働制の導入手順を確認します。企画業務型裁量労働制は、適用事業場(事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社など)において、対象業務(企画、立案、調査及び分析)を行う場合で、対象となる労働者(十分な知識・経験を有する)に適用できます。専門業務型裁量労働制よりも業務の内容が明確でないことから、導入するときには厳格な手続きを要求されます。
(1) 労使委員会を設置する
(2) 労使委員会で決議を行い、以下1から8を定めた協定書を締結する
① 対象となる業務の具体的な範囲(「経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務」など)
※ 対象となる業務は企業等の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、 ホワイトカラーの業務全てが該当するわけではない
② 対象労働者の具体的な範囲(「大学の学部を卒業して5年以上の職務経験、主任(職能資格○級)以上の労働者」など)
③ 労働したものとみなす時間
④ 使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置の具体的内容(「代償休日又は特別な休暇を付与すること」など)
※④とあわせて、次の事項についても決議することが望まれる
> 使用者が対象となる労働者の勤務状況を把握する際、健康状態を把握すること
> 使用者が把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、対象労働者への企画業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うこと
> 使用者が対象となる労働者の自己啓発のための特別の休暇の付与等能力開発を促進する措置を講ずること
⑤ 苦情の処理のため措置の具体的内容(「対象となる労働者からの苦情の申出の窓口及び担当者、取扱う苦情の範囲」など)
⑥ 本制度の適用について労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し不利益取扱いをしてはならないこと
※⑥とあわせて次の事項についても決議することが望まれる
⑦ 決議の有効期間(3年以内とすることが望ましい)
※⑦とあわせて、次の事項についても決議することが望まれる
> 委員の半数以上から決議の変更等のための労使委員会の開催の申出があった場合は、決議の有効期間の中途であっても決議の変更等のための調査審議を行うものとすること
⑧ 企画業務型裁量労働制の実施状況に係る記録を保存すること(決議の有効期間中及びその満了後3年間)
(3) 労働基準監督署長へ届け出る
(4) 対象労働者の個別同意を得る
(5) 決議が行われた日から起算して6か月以内ごとに1回、労働基準監督署長へ定期報告を行う
企画業務型裁量労働制は、制度の導入時だけでなく制度導入後も定期的に報告が義務付けられており、運用負荷が大きいです。
また、給与支給の観点からは厳密な労働時間管理は不要であるものの、企業の安全配慮義務は裁量労働制の適 用労働者に対しても引き続き求められます。よって、みなし時間を大きく超えて長時間労働をしている労働者のいる場合には、健康への配慮や、制度設計自体の見直しが求められます。
<参考>
「専門業務型裁量労働制」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html (2022年9月13日閲覧)
「企画業務型裁量労働制」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/kikaku/index.html (2022年9月13日閲覧)
「専門業務型裁量労働制の労使協定例」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/c.html (2022 年 9 月 13 日閲覧)
「専門業務型裁量労働制に関する協定届」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/dl/new10.docx (2022 年 9 月 13 日閲覧)
「企画業務型裁量労働制に関する決議届」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/dl/new11.docx (2022 年 9 月 13 日閲覧)
「企画業務型裁量労働制に関する報告」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/dl/new12.docx (2022 年 9 月 13 日閲覧)
<今回のケースについて>
裁量労働制は、労働時間の長さが必ずしも業務の成果へ繋がらない専門職種に対しては有効ですが、会社側の 制度導入・運用負荷、労働者側の健康リスクともに高くなりがちであり、労務管理の負荷を軽くしたいという 理由のみで導入を進めることはおすすめしません。裁量労働制に適した職種が貴社に存在するのか、よくご確 認された上で導入をご検討ください。
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等 によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。