人事・労務Q&A

取得可能な年次有給休暇がない社員が休んだ時の取り扱い

Question

社員が、社内で独自に定める休暇の取得条件を誤認して1日休んでしまいました。当該社員は既に付与された年次有給休暇を全て取得済みであるため、 次年度に付与予定の年次有給休暇を前倒して付与することで、休んだ日を有休扱いとすることを希望しています。この対応は可能でしょうか。

Answer

年次有給休暇を前倒して付与することは、労働者にとって有利な対応となるため法的には問題ありません。 ただし、前倒して付与した場合、以降の付与の基準日の管理や他の社員との公平性等の懸念点も多いため、欠勤扱いとするか、 やむを得ない場合には別途特別休暇を付与することを推奨します。

<基本事項>

労働基準法第39条により、使用者は雇い入れの日から6ヶ月継続勤務し、全所定労働日の8割以上出勤した労働者に対して 10日間の年次有給休暇を与える義務があり、その後も1年ごとに一定の日数を付与することが求められています。 前回の付与から1年未満のタイミングで前倒して付与すること自体は、法定を上回って労働者に有利な対応であるため労働法上の問題はありません。
ただし、年次有給休暇は1年に1回付与する必要があるため、前倒して付与した場合、以降の基準日も前倒す必要が生じます。

(例)通常毎年4月1日を付与の基準日としているが2024年3月1日に前倒して付与する場合、 翌年は1年後の2025年3月1日に付与する必要が生じる

一方、会社が法定を上回る日数の年次有給休暇を付与している場合には、法定を上回る分について前倒して付与し、 残りを本来の基準日に付与することが労働基準法上問題ないとされています。 一部を前倒して付与しても、法定以上の日数を本来の基準日に付与しているためです。
このように一部を前倒して付与する場合には、以降の基準日について当事者間でトラブルとなることを防ぐため、 「前倒して年次有給休暇を付与する場合にも、本来の基準日を付与の基準日として取り扱う」旨を就業規則等で定めておくなど、 取り扱いを明確にすることが重要です。

いずれの場合であっても、年次有給休暇を前倒して付与した社員が本来の基準日を迎える前に退職してしまったり、 前倒しの付与を希望する社員が殺到し、管理しきれなくなったりするリスクもあるため、前倒しの付与を認める際には慎重な検討が必要です。

<実務上の改善点>

今回のようなケースを未然に防ぐためには、社内で設けている休暇の取得要件を周知しておくことに加え、 社員の年次有給休暇の残日数を丁寧に管理することが有効です。 例えば、上司と部下の間で定期的に年次有給休暇の残日数を確認し計画的な取得を促すほか、 社員が常に年次有給休暇の残日数を確認できる勤怠システムの導入などが考えられます。
また、会社としても、法定通り年次有給休暇管理簿を作成し3年間保存することに加えて、残日数が少ない対象者を管理し、残日数が一定の 目安日数を下回った場合には、人事担当者より状況を確認することで、残日数がない状態で誤って欠勤してしまうケースを未然に防ぐことができます。

<今回のケース>

今回のケースでは、個別に前倒しの付与を認めると管理が煩雑になり、他社員から今後希望があった場合に例外対応を認める基準の線引きが 難しくなるため、注意が必要であると回答しました。欠勤扱いとするか、やむを得ない事情である場合は別途特別休暇を付与することをおすすめします。

<参考>(2024.4.2閲覧)

「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」
e-GOV法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049「事業主の方へ」 働き方・休み方改善ポータルサイト
(厚生労働省)https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/jigyousya.html

※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。