Question
私傷病により一定期間欠勤しては復帰を繰り返すケースが増えています。会社の就業規則で欠勤期間が上限を超えると休職となるルールを定めていますが、上限に達する日の直前に復帰して勤務日を挟むことで、欠勤期間のカウントが毎回リセットされている状況です。 制度上は問題ないものの実質的に上限規定の意味をなしておらず、組織の業務遂行に支障 が生じています。また、体調面が万全でない状態で復帰を繰り返すことになるため、安全配 慮義務の観点でも不安があります。
会社としてどのように対応すればよいですか。
Answer
欠勤期間の通算規定を導入されることをおすすめします。
<基本事項>
多くの会社では私傷病等による欠勤や休職の規定を設けていますが、それらの制度については特に労働基準法上の定めはなく、会社が任意で定めるものです。よって、欠勤期間は必ずしも継続して欠勤した期間のみをカウントする必要はなく、通算規定を導入している会社もあります。
今回のケースのように欠勤期間の通算規定がないと、上限に達する日の直前に無理な復帰をしようとする社員が発生し得ます。欠勤期間の通算は一見、社員にとって不利な制度に見えますが、無理に復帰を急かさないことで社員が休養に専念できることにつながるとも考えられます。特に近年問題となっているメンタルヘルスに問題を抱えた社員は、出勤できる日と欠勤日を繰り返す傾向があるため、このような社員に対応するためには通算規定を導入することをおすすめします。通算規定を新たに設けることが就業規則の不利益変更になるかについて、野村総合研究所事件判決(東京地判平 20.12.19)で「近時いわゆるメンタルヘルス等により欠勤する者が急増し、これらは通常の怪我や疾病と異なり、一旦症状が回復しても再発することが多いことは被告の主張するとおりであり、現実にもこれらにより傷病欠勤を繰り返す者が出ていることも認められるから、このような事態に対応する規定を設ける必要があったことは否定できない。」として、通算規定は必要性及び合理性を有する ものであり、就業規則の変更として有効とされた判例があります。
短期間のうちに断続的に欠勤を繰り返す場合でも、通算規定があれば会社・社員の双方にとって欠勤期間の上限に達する日が明瞭です。また、通算規定があれば欠勤の間で 1 日だけ勤務をすれば実質的に欠勤期間を延長できるという事象がなくなるため、他の社員にとっても納得感があります。
通算規定の導入にあたり、次の3点を検討しましょう。
- 前回の欠勤期間からの復帰後、次の欠勤までの勤務日数が何日間以下であれば通算するか
- 通算対象となる復帰前の欠勤・休職を、一定期間以上の欠勤・休職に限定する定めを設けるか
- 同一事由の欠勤期間のみ通算するか、別事由の欠勤期間であっても通算するか
1については、3か月や6か月程度で設定をする事例が多いです。傷病の再発に対応するという目的に対しては、あまり何年にも渡る期間設定はそぐわないと考えられます。また、3 については同一事由のみ通算する事例が多いように見受けられますが、実際の運用時には、 身体の病気と、それに対する不安や治療のストレスによる心の病気など、同じ原因で別の欠 勤事由が発生する場合もあることにご留意ください。さらに、欠勤だけでなく休職においても通算規定を導入することで、同様の断続的な休職に対応しやすくなるため、これを機に導入をご検討ください。
なお、欠勤期間については通算規定を導入しても、欠勤期間中の実労働日については法令上給与支給が求められることに注意が必要です。
<今回のケースについて>
欠勤期間の通算規定を導入し、実際に社員に適用する場合は、欠勤期間が上限に達する日や 欠勤期間満了後の取り扱いについて社員に丁寧に説明を行い、安心して休養・治療に専念できるようにお取り進めください。
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。