Question
従業員のワークライフバランスへの配慮と優秀従業員の確保のために、やむを得ない事情 で一度退職した従業員を再び雇用する制度の導入を検討しています。制度設計について教 えてください。
Answer
退職した従業員を再び雇い入れる仕組みを導入する企業が広がっています。従来は女性活 躍やワークライフバランスへの配慮のために育児、介護、配偶者の転勤等のやむを得ない事情により退職した従業員を対象として導入する企業が目立ちましたが、最近は退職理由を 問わずにカムバックを促す取り組みが拡大しています。一度退職した従業員たちに再び社内で活躍してもらうためには、退職理由を正確に把握し、会社の目的に照らして最適な制度 を検討することが重要です。
<基本事項>
一度退職した従業員を再び雇い入れる取り組みは様々な企業で導入されていて、企業によってジョブリターン制度、カムバック制度等の名称で呼ばれています。こうした制度の主 な導入目的は2つあり、1つは従業員のワークライフバランスへの配慮、もう1つは有効な採用手法として優秀な労働者を確保したり、採用コストや採用後のミスマッチを抑制し たりすることです。あえて制度化しなくとも一度退職した従業員の採用事例のある企業も ありますが、制度化して従業員へ周知することで制度の利用が進み、ワークライフバランスへの配慮や優秀従業員の採用といった目的を果たしやすくなります。
制度設計にあたり、今回のケースのように目的が従業員のワークライフバランスへの配慮 であれば、先ずは制度適用対象となる退職理由を検討します。一般的には結婚、配偶者の 転勤地への帯同、育児、介護等が要件として考えられますが、これまでの従業員の退職理由を正確に把握した上で必要なものを設定します。
他の検討項目としては
- 対象者
- 離職期間
- 採用選考
- 再雇用後の処遇
があります。
【対象者】
今回のケースのワークライフバランスへの配慮という趣旨に照らせば家庭の事情等で退職した全ての従業員を対象とするのが自然ですが、一方で、会社として再雇用後の活躍が見込める方に限定して制度を適用することも可能です。その場合は全ての従業員を対象とする場合と比較して、社員の安心感やレピュテーションは下がる可能性があることに留意ください。要件としては、退職前に正社員として○年以上勤務経験のある方、一定程度の評 価成績を収めた方、等が考えられます。ただし、こうした要件を課す場合は従業員へ開示をしておかないと、要件に合わない方の再雇用を拒んだ場合にトラブルとなりかねないため、事前に周知しておきましょう。
【離職期間】
対象者の検討と同様に再雇用後の活躍が見込めるかという観点では、一度退職してから再雇用までの離職期間が長すぎない設計とするのが良いです。一般的には 3~10 年を上限と している企業が多いようです。育児や介護の場合、育児休業や介護休業と併用すると実質的な離職期間が再雇用制度の想定よりも長くなる可能性がある一方で、配偶者の転勤への帯同の場合は 3 年では復帰が難しいことも考えられます。
【採用選考】
離職期間が長引けば、必ずしも退職前と全く同じパフォーマンスを発揮できないことも想 定されます。また会社側も業務で求める能力やスキル要件が変わっている可能性があります。その場合は制度の対象者だからといって無条件で復帰を受け入れるのではなく、簡単 な採用試験や面談の実施をご検討ください。復帰時の社員の生活状況や、会社が復職ポストに求めるニーズについて互いに認識を合わせましょう。
【再雇用後の処遇】
必ずしも退職前と同じ労働条件である必要はないため、再雇用時の社員の能力・スキルや、会社が用意できる職務に応じて、本人との合意のもとに決定します。離職期間が長くスキルの陳腐化が懸念される場合は、退職前よりも労働条件を低く設定したり、使用期間を設けて労働条件を判断をしたりといった運用が考えられます。もちろん、退職前のパフ ォーマンスや離職期間中の経験を考慮して、退職前よりも高い処遇で雇用することも可能です。
制度設計の際にはぜひ上述の項目をご検討ください。また、家庭の事情を抱える社員のワークライフバランス推進のためには、法定を上回る育児・介護休職制度や配偶者転勤同行 休職制度等を導入して、再雇用制度と併用することも可能です。
従業員のワークライフバランスへの配慮だけでなく、優秀な労働者の確保を制度の目的とする場合には、キャリアアップのための転職等のために退職した従業員も制度の対象に含めた上で、処遇も本人の納得のいく水準で設定しなければ優秀者に再び入社してもらうことは難しくなるという点に注意が必要です。
最後に、こうした一度退職した従業員の再雇用制度には円満退社を促進する効果があるとも言われています。再び会社に戻ってくる可能性を考えれば、引継ぎをせずに退職することや、会社の評判を落とすような発言を抑制する効果があると考えられるからです。
<参考>
労働政策研究・研修機構「企業の多様な採用に関する調査」(2018)
<今回のケースについて>
やむを得ない事情で退職した従業員の再雇用制度は、ワークライフバランスの重視や労働力の逼迫が進む社会において会社と従業員の双方にとって有用な仕組みです。制度を効果 的に運用するためには会社全体に周知をして従業員の理解を深めておくことが、制度の利用および再雇用者の受け入れ態勢の強化のためにも重要です。
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等 によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。