人事・労務Q&A

多様な働き方とフレックスタイム制度

Question

コロナ禍で多様な働き方への需要が高まり、わが社でもフレックスタイム制を導入することとなりました。しかし、全社員へ適用できるのかや労務管理方法など、制度の詳細設計にあたり分からないことがたくさんあります。

たとえば、短時間勤務者へフレックスタイム制は適用できるのでしょうか。

また、コロナ禍において在宅勤務制を既に導入していますが、フレックスタイム制と組み合わせた場合には特に勤怠管理が難しくなると感じています。変則的な勤務時間で働く場合に、事前の上司承認を求めることはできるのでしょうか。

Answer

短時間勤務者へもフレックスタイム制の適用は可能です。この場合、各人の勤務時間に合わせて、フルタイム勤務者よりも短い所定労働時間の設定が必要となります。

また、在宅勤務制とフレックスタイム制を併用している他社事例は数多くあります。ただし、フレックスタイム制はあくまで「労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決める」制度であり、事前承認はこのフレックスタイム制の趣旨に反するため、認められません。

<基本事項>

短時間勤務者へフレックスタイム制を適用する場合、フルタイム社員よりも清算期間における総労働時間を短く設定します。例えば協定上「清算期間は1ヶ月、総労働時間は 1日の標準所定労働時間に当該期間の就業規則に定める所定労働日数を乗じた時間とする。」としている場合、フルタイム社員の1日の標準所定労働時間が8時間であれば、清算期間1ヶ月の所定労働日数が20日間の月の総労働時間は160時間となります。このとき、同じ職場で1日の標準所定労働時間を2時間短縮して6時間としている短時間勤務者の同月の総労働時間は、6×20=120時間となります。
短時間勤務者の総労働時間はフルタイム社員よりも短くなりますが、時間外割増手当については、フルタイム社員と同様に清算期間の法定労働時間を超えない範囲であれば法令上付与する必要はありません。月の法定労働時間は法令では定められていませんが、週40時間を基にして「40×清算期間の暦日数÷7」で求めることができます。例えば清算期間が1ヶ月のとき、30日の月であれば40×30÷7=171.42…ですので、各人の総労働時間に係わらず、月171時間を超過した労働時間に対して割増給を支給します。
2019年の法改正により清算期間の上限が「3ヶ月」に延長され、月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が可能となりました。しかし1ヶ月を超える設定をする場合、時間外労働の考え方が異なるため注意が必要です。清算期間が1ヶ月を超える場合、時間外労働は
 ・清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えないこと
に加えて
 ・1ヶ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
も併せて満たす必要があります。このとき、注意しなければならないのが、各月において週平均50時間を越えなかった時間がすべて「最終月の時間外労働」の計算対象となってしまうことです。そのため、最終月の時間外労働時間が大幅に増加してしまう可能性があります。
例えば、清算期間3ヶ月で毎月35時間の時間外労働をした場合、清算期間途中の1ヶ月目・2ヶ月目は「1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないこと」を満たしており、各月での時間外労働はカウントされませんが、3ヶ月目で清算期間の時間外労働は合計105時間となります。各月ごとの残業時間は35時間であるにもかかわらず、最終月にまとめてカウントされるため、36協定で定められる時間外労働の上限月100時間未満を超えてしまい法令違反となります。
続いて、フレックスタイム制の事前承認についてですが、会社や上司の事前承認を得られないと労働時間を決められないというのはこの制度の趣旨に反します。しかし、会社や上司が従業員の労務管理のために始業・終業時刻について任意で事前連絡を求めることは可能であり、実際に多くの会社で行われています。あくまで「労働者自身が労働時間を主体的に決定する」ことを妨げない制度設計および運用をすることが重要です。

<今回のケースについて>

フレックスタイム制はあくまで「労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決める」制度です。この原則を守った上で、短時間勤務制や在宅勤務制などと組み合わせることで、社員の柔軟で多様な働き方をさらに後押しすることが可能となります。
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。