Question
当社では次年度において社員の労働条件を変更する人事制度改定を予定しており、現在改定内容の検討や規程整備等の作業を進めています。しかし、改定内容の検討に時間を要してしまい、また、十分な経過措置を設ける予定ではあるものの、一部の社員には不利益変更となる部分もあることから、労働組合との交渉に時間を要することが予想されます。
万一、年度内に労働組合との交渉が妥結に至らなかった場合、新制度を予定通りのスケジュールで導入することはできないでしょうか。
Answer
法令上は、人事制度改定にあたり、労働者側との合意は必須ではなく、最終的に合意に至らなくても有効な制度として導入は可能ではあるものの、今後の労働者側との関係や制度運用等を考慮してできる限り合意に持ち込むのが通常であり、導入時期を遅らせることも検討する必要があります。
<基本事項>
制度改定の内容について、労働者側と合意がとれていることまでは法令上必須ではなく、最終的に合意に至らなくても制度導入自体は有効に実施できます。就業規則改定にあたっては、労働者側の意見を聴取し、意見書を添え労働基準監督署へ届け出る手続きが必要ですが、この意見聴取は、労働者側との合意がとれていることまでを求めているものではありません。
一方で、会社としては、労働者側に対し、制度改定について誠実に説明する必要があります。労働組合がある会社においては、組合員の労働条件を変更する制度改定は義務的団交事項とされており、会社は労働組合との団体交渉に誠実に応じる義務があります。
会社からの制度改定内容に関する説明が不十分であったり、合意形成に向けた努力を怠っていたり、労働者側が強く反発しているにもかかわらず一方的に制度導入してしまうと、会社と労働者側との関係が悪化することが予想されます。その結果、導入後の制度運用や次回以降の制度改定に支障をきたしたり、最悪のケースではストライキや訴訟に発展する可能性もあります。制度改定が社員にとっての不利益変更を伴う場合は、その合理性判断の基準の一つとして、「労働組合等との交渉の状況」が挙げられており、この点からも、無理やりな制度改定は避けたほうがよいと言えます。
また、労働組合と労働協約を締結している場合は、協約の対象となっている改定内容は、組合と合意したうえで協約を改定しない限り、組合員(事業場の4分の3以上の労働者に適用される労働協約である場合は、当該事業場の労働者全員)には適用されません。労働組合との合意なく制度改定した場合は、労働協約が改定されず、結果的に多くの労働者に適用されないという事態にもなり得ます。
<今回のケースについて>
ご相談のケースの制度改定は、社員の労働条件を変更するものであり、また不利益変更を伴うものであることから、会社としては、労働組合との交渉に誠実に対応したうえで、合意形成を目指すことを原則とすべきであると言えます。
制度改定の内容が、概ね労働組合に受け入れられる見込みであり、単に交渉の時間が足りないという状況であれば、万一妥結前の制度導入となったとしても制度自体は有効です。事後ではあっても、遅滞なく労働組合側の合意を取り付けることで対応は可能です。
一方で、制度改定の内容からして、労働組合との交渉が難航したり要望書が提出される可能性がある場合には、制度導入自体を延期したうえでまずは丁寧な交渉に臨み、合意に至った時点で制度導入することを検討することになります。その場合は、改定の内容にもよりますが、当初予定していた導入時期に遡及して新制度を適用することも可能です。
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。