人事・労務Q&A

副業・兼業の労務管理について

Question

副業・兼業を認める方向で就業規則を見直すことになりました。副業・兼業の労働時間も把握する必要があると聞きましたが、労働時間の管理方法を教えてください。また、時間外労働の割増賃金はどちらの会社が支給すればよいのでしょうか。そして、社員の健康管理や労働災害が発生した場合はどちらの会社が責任を負うのでしょうか。

Answer

副業・兼業での労働時間も合算することが必要です。法定外労働の割増賃金については、毎日の労働開始時から合算し、法定時間を超えた労働をさせた使用者が支払います。

ただし、簡便な労働時間管理の方法として、それぞれの事業場における労働時間について予め上限を設定しておくことで、自らの事業場における労働時間のみを管理し、割増賃金を支払うこともできます。

また、全ての使用者に安全配慮義務が生じます。

<基本事項>

副業・兼業をする場合の労働時間の管理方法としては、原則、労働契約の前後の順に所定労働時間を順次合算していきます。また、法定時間外労働の割増賃金の支払いについては、1日の労働前後の順に所定外労働時間の発生順に合算していき、法定時間外労働が発生した企業に割増賃金の支払い義務が生じます。
しかし、こうした労務管理は使用者の運用負荷が大きいため、厚生労働省は2020年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を大きく改訂し、労働者本人の申告に基づいて本業と副業の労働時間を合算し、それぞれの使用者において時間外労働の管理をすることができるという、より簡便な管理モデルを示しました。
具体的には、副業・兼業の開始前に、先に労働契約を締結していた使用者の事業場における法定外労働時間と、副業・兼業先の使用者の事業場における所定労働時間及び所定外労働時間とを合計した時間数が単月 100 時間未満、複数月平均 80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させることができます。先に労働契約を締結していた使用者は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、副業・兼業先の使用者は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における 36 協定の延長時間の範囲内として管理をして割増賃金を支払うことができるため、他の使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく労基法を遵守することが可能となります。
また、副業・兼業をしていても、例えばフリーランス、アドバイザー、理事等は労働時間が通算されません。副業・兼業の職種が、労働基準法や労働時間規制の適用対象であるかの確認が必要です。
健康診断については、自らの事業場の労働時間が所定労働時間の3/4以下の短時間労働者に対しては、副業・兼業の労働時間を合算すれば3/4を超える場合であっても、健康診断を受診させる義務は生じません。また、労働災害発生時の業務の過重性の評価にあたっても、個々の事業場ごとに業務の過重性を評価するとされています。しかしながら、安全配慮義務は労働者の労働時間の長短に係わらず、いずれの使用者にも生じるものです。労使の話し合い等を通じ、副業・兼業の状況も踏まえて、健康診断等の必要な健康確保措置を実施することが望まれます。

<今回のケースについて>

簡便モデルを用いれば他の使用者のもとにおける労働時間を都度集計する必要はなくなるものの、労働時間の上限設定や安全配慮の観点から、副業・兼業をしている労働者に対しては他の使用者の下での労働時間を正確に申告するよう促すことが重要です。

また、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には副業・ 兼業を制限することができるよう就業規則等に規定しておくこと、副業・兼業の状況について当該労働者と話し合うこと、さらに、労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずることが求められます。

※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。