Question
今年度の厚生労働省による過労死ラインの見直しや、在宅勤務により深夜労働が増えてしまったことを受けて、長時間労働の削減を目指して勤務間インターバル制度の導入を決めました。運用の注意点や、就業規則への記載方法を教えてください。
Answer
勤務間インターバル制度を導入するために最も大切なことは、社員の労働時間の実態を正しく把握することです。その上で、無理なく運用できるインターバルの時間を8時間~12時間で設定します。また、就業規則にはインターバル取得後の始業時間についてや、災害時等の例外規定について記載をします。
<基本事項>
2021年9月に労災認定の基準が改正された際、いわゆる「過労死ライン」の見直しが行われました。過労死ラインの基準は以下のとおりです。
- 発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって1ヶ月当たりの時間外労働が80時間を超えること
- 発症前1ヶ月間に1ヶ月当たりの時間外労働が100時間を超えること
結果として過労死ラインの基準となる時間外労働時間数は変更されませんでしたが、基準に満たなくともこれに近い時間外労働を行った場合は「労働時間以外の負荷要因」を考慮し、業務との関係が強いと評価・労災認定されることになりました。
今回、労働時間以外の負荷要因として新たに追加されたものに「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」があり、事業主には長時間労働の削減だけでなく、従業員の休息時間を確保する施策が求められています。こうした施策に勤務間インターバル制度があります。
勤務間インターバル制度を導入する際に着手すべきは、社員の労働時間の実態を正しく把握することです。業務量が多いなどの理由で社員の長時間労働が常態化している場合、適切な勤務間インターバルが確保されない事態や、勤務間インターバルを確保してもインターバル明けの労働時間が後ろ倒しになるだけで長時間労働が解消されない事態が想定されます。あくまで勤務間インターバル制度は、長時間労働をした際の負担軽減策であり、業務量や業務効率の見直しによる長時間労働の是正や、労働時間の実態把握にも別途取り組み続けることが求められます。勤務間インターバルの時間は8時間~12時間の範囲で事業主が任意で設定しますが、社員の負担軽減の観点からは長時間取ることが理想ではあるものの、先ずは8時間でも良いので無理なく運用できる時間を設定することが大切です。
勤務間インターバル制度を就業規則へ記載する場合、勤務間インターバル明けの労働時間管理の規定として主に2つのパターンがあります。
① 休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす
勤務間インターバルの満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす規定です。実際には労働していない時間を労働したとみなすため、長時間労働の削減につなげることができます。なお、その場合は勤務間インターバル明けの残業を抑制することが求められます。
② 始業時刻を繰り下げる
繁忙期で長時間労働が続くことが想定される場合、①では労働時間のカウントが伸びるのみで長時間労働の抑制には繋がりにくいと考えられます。また、フレックスタイム制度を導入している場合は、フレキシブルタイムに係わらず勤務間インターバル明けの始業時間を明確に管理できるため②の方が運用しやすいと考えられます。
その他、災害その他避けることができない場合に対応するための例外規定や、申請手続、勤務時間の取扱いなどについて、必要に応じて就業規則の整備が必要です。
詳しくは、厚生労働省の就業規則規程例をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000162467.pdfPDF
<今回のケースについて>
勤務間インターバル制度は、長時間労働による心身の負荷を軽減、過労死の防止、およびワークライフバランスの確保に有効な施策であると考えられます。しかし、勤務間インターバル制度それ自体が長時間労働の削減を叶えるものではないため、長時間労働削減の施策と合わせて無理なく運用できる制度設計が求められます。
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。