Question
社員が資格を取得するための支援として、社内貸付金制度の導入を検討しています。 「資格を取得後、〇年間勤務した場合に貸付金の返還を免除する」という条件を付けた制度 を検討しているのですが、留意点はありますか。
Answer
貸付金制度を導入する際は、まず社員へ違約金や賠償金の支払いを命じる制度になっていないか、 対象となる資格への貸付自体が妥当であるか確認しましょう。また、返還免除の条件設定に際して、 長すぎる期間の勤務を条件とするなど、退職の自由を制限する内容としないようご留意ください。
<基本事項>
労働基準法第16条では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約 をしてはならない。」と賠償予定の禁止を定めています。 これは、労働者の退職の自由を保障するために、会社が賠償金や違約金を定めて実質的な足止めを禁止する 趣旨のものです。これに基づき、まず貸付金制度が資格取得にかかる費用を「支給」して退職した場合に その返還を予定するものではなく、「貸付」をする内容であることを確認しましょう。
次に、対象とする資格取得費用の貸付自体が妥当であることが求められます。 資格の取得自体が業務命令である場合等、本来会社が負担すべき費用とみなされると貸付自体が16条違反 となる可能性があるためです。
ただし、取得する社員本人に利益があり、本来的に社員個人が負担すべき性質の費用であることや、 取得にかかる費用の金額、返還免除の条件となる就労期間が不当に長いものではないこと等の事情から貸付 が有効と認められた過去事例もあり(東京地判平20・6・4労判973号67頁コンドル馬込交通事件)、 明確な基準があるわけではなく、貸付に関する契約の形式や資格取得の任意性、業務性の程度、返還免除基準 の合理性等が総合的に考慮されています。業務命令ではなく社員本人が任意で取得する資格の場合にも、 返還を免除とするための勤務期間や返還額の範囲が適切でないと判断されることもあるため、 次に記載する実務上の留意点を確認してください。
<実務上の留意点>
以下の例のように、労働契約とは別の金銭消費貸借契約として締結することで、貸付金の返還合意の有効性が 認められやすくなります。契約書に限定せず誓約書による返還合意の取得等も考えられますが、 いずれの場合でも一定期間の就労を強制するような内容とならないよう、返還免除の対象となる勤務期間や 返還額の妥当性を確認しましょう。
(金銭消費賃貸契約書 例)
第〇条
甲は乙に対し、○○資格の取得費用として、教材費、講習受講料、試験受験料およびその他会社が必要と 認める費用として〇円を貸し渡し、乙はこれを借り受けた。
第〇条
乙が、資格を取得後に満〇年を超えて勤務した後は、貸与金の返還を全額免除する。
さらに、資格の取得を支援するための費用の上限や範囲(不合格の場合や補講の取り扱い等)についても 予め定めておくと、トラブルが起こりにくいでしょう。
社員の自己啓発や資格の取得を支援する制度を導入している企業数は年々上昇傾向にあります。 会社としてどのような資格の取得を推奨し、どのように支援するのか、貸付金制度を導入する方法も含めて 自社にあった制度を検討してください。
<参考>
「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」e-GOV法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049 (2024.1.30閲覧)
「④労働者の資格取得費用の負担及び損害賠償責任の制限」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/churoi/chyousei_jirei/dl/04.pdf PDF(2024.1.30閲覧)
※本記事の内容は、掲載日時点での法令・世間動向に則ったものであり、以後の法改正等によって最新の情報と合致しなくなる可能性がある旨ご了承ください。